鉄代謝の特徴は、鉄を吸収する機構は存在するが、排泄する能動的機構が存在しないことである。鉄過剰症は遺伝的素因、頻回輸血、その他慢性肝疾患、アルコール摂取などの疾患で生じ、肝臓、心臓、中枢神経など生命維持に重要な臓器を障害する。鉄原子は、単独では細胞間、細胞膜、細胞内を移動できず、キャリアーないしトランスポーターを必要としており、血清中ではトランスフェリンが、小腸での鉄吸収には、divalent metal transporter 1(DMT1)が担っている。DMTは日本人の軍神宏美博士により初めてクローニングされた。このトランスポーターは他の微量金属も共有して使用しているため、金属中毒と極めて密接に関連している。さらに、細胞からのエクスポーターであるferroportin1や、生体の鉄代謝を統合的に制御するペプチド、ヘプシジンも同定され、生体の鉄代謝の全貌が明らかになりつつある。鉄過剰症に伴う臓器障害に対し、瀉血や鉄キレート剤などによる生体鉄を制御する治療法が有効である。