眼循環は様々な生理的刺激に対し,生体の恒常性を維持するように合目的に血流を調節している.この生理的血流調節機構の破綻が重篤な網膜疾患の発症進展に関与すると考えられ,この調節機構の解明とその評価法の確立は日常臨床においても重要な意味を持つと考えられる.眼循環に影響を及ぼす生理的刺激に関し,我々はこれまで低酸素,高二酸化炭素,血圧上昇に対する網膜循環の反応とそのメカニズムを解明してきた.生理的刺激の一つである温度変化に関しては,近年加齢黄斑変性の治療法として経瞳孔温熱療法(TTT)が行われるようになり,TTTの眼循環への影響を検討した報告が散見されるが,眼組織温度変化による眼循環への影響に関しては詳しい検討がなされていない.そこで,我々は健常成人を対象とし,手持ち罨法器を用いて眼球を10分間加熱し,負荷前後においてレーザードップラ眼底血流計(キャノンCLBF model 100)で網膜血流量を,中心窩脈絡膜血流量をレーザードップラ血流計でそれぞれ測定した.得られた結果から,眼球加熱負荷により網膜血流量は増加するが,中心窩脈絡膜血流量は反対に減少することが明らかとなった.今回観察された網膜血流増加および中心窩脈絡膜血流量の減少は,網膜組織温度を一定に保つ眼循環の生理学的調節機構を反映すると推測された